KWNB624

二次小説置き場。ブログタイトルから連想できる方のみどうぞ

高瀬準太の欲しいもの①

 

準太×阿部/準さんお誕生日話

 

阿部は悩んでいた。準太の誕生日が目前に迫っていたからだ。

いわゆる恋人同士になってから、阿部の誕生日とクリスマスと正月というイベントをこなしてきたものの、それらは全て準太のエスコートによるもので、どこに行くかも何をするかも完全に準太任せだった。

俺がそうしたいからと言う準太の言葉に遠慮や嘘はなく、本当に自分が主導権を握って阿部をもてなしたい、喜ばせたいという気持ちは充分に伝わってきた。だから阿部も今までは準太に任せっきりでいたが、今回ばかりはそうはいかない。いつも自分が与えてもらっている愛情や思いやりを、今回は阿部が準太に返す番なのだ。が。

「…分かんねー…」

阿部は大きな溜め息を吐いた。

まず、当日何をすればいいか分からない。どこに行けばいいかも分からない。そして極めつけは、プレゼントが思いつかないのだ。

阿部の誕生日には、準太はマフラーと手袋を買ってくれた。それもあらかじめプレゼントとして用意されていたわけではなく、二人でぶらぶら店をひやかしているときに「あ、この色良くね?」と訊かれたので「そうですね、肌触りもいいし」と答えたら、じゃあ買おうと準太は即決したのだ。その後ランチに入った店で食後のドリンクを飲んでいる時に、ハイこれとプレゼント用に包装された先ほどの包みを手渡された。

唖然とする阿部に準太はニヤニヤ笑いながら、「まさか自分にだと思わなかったんだろ」と言った。意味が分からなくてぎこちなく頷けば、彼は「何渡していいか分かんなかったからさ、隆也と一緒に決めたかったんだ」と言った。あの時の準太の表情は忘れられない、それくらい阿部を驚かせたことが嬉しかったのだろう。

 

その日の別れ際、初めてキスをした。

 

「……それは思い出す必要ないだろ」

熱くなる自分の頬と口元をてのひらで押さえる。とにかく、準太が阿部の誕生日を大切な思い出にしてくれたように、阿部も準太の誕生日には良い思い出として何かを形として残したいと思ったのだった。

「準サンが最近欲しがってるものぉ?」

目の前でチョコレートパフェをうまうま頬張る利央に阿部は訊いた。

本当は自分だけで選びたかったが、なにせ時間がない。もっと早いうちから考えていれば良かったと思っても、毎日毎日野球浸けで家に帰れば夕飯と風呂、それが終われば寝るだけだった生活に準太という恋人が加わってからまだそう経っていないため、自分のことと準太のことを考える配分が全く掴めないでいる。しかも自分以外の人間がこんなにも頭の中を占めることなど初めてなので、正直阿部は毎日が戸惑いの連続で、こんな状態は正常なのか異常なのかも分からなくて怖いのだ。

だからあまり考えないように努力したいのについ考えてしまっては自問自答を繰り返すばかりで、そんな中で準太の誕生日プレゼントについて悩めば悩むほど頭はこんがらがっていって、だらだら答えの出ないままもう今日は準太の誕生日の3日前になってしまっていた、というわけなのである。我ながら言い訳がましいと思わないでもないが。

「なんかさ、あれ欲しいなーとか言ってること…ねえ?新しい靴が欲しいとか財布が欲しいとか…」

「準サン結構こだわりあるから一旦買ったらそう簡単に買い替えないしなー」

「何でもいいんだけど…ヒントだけでも」

「そりゃ知ってたら教えてあげたいけど…ってゆーか、たかやソレさぁ」

利央はチョコレートソースとホイップクリームをたっぷり添えたバナナをバランス良くロングスプーンに載せて口元に運び、パクッと勢い良く銜える。そして口をもぐもぐさせながら「準サンの誕生日プレゼント考えてんだろぉ」と面白くなさげに拗ねた口調で言った。

「だってもうすぐ誕生日だろ」

「やっぱり二人でお祝いするんだ…ちぇー」

「お前も来るか?今度の日曜に準太さん家行くんだけど」

悪気なく本気で言ってるから怖い、と利央は思う。そんなことすれば自分の命が危ないことは火を見るより明らかだし、それに恋人同士の二人の間に割って入るなど馬に蹴られて死んでしまう。いくら二人の仲を認めたくないと言ってもさすがにそれは出来ないだろう。

「めちゃくちゃ悔しいしすっげーヤだけど行かないよぉ。俺ムナシーだけじゃん」

「そう…なのか?」

鈍い恋人を持つ準太の気苦労が何となく分からないでもない、こんなに天然でよく我慢出来てるなぁと感心半分同情半分で記憶の中の不遜な準太の顔を思い浮かべる。

「たかや、準サンの欲しいものほんっとにわかんねーの?」

「え?何それ、準太さん何か言ってたのか?」

少し前のめりになる体勢で阿部が利央の言葉に食いつく。やはり本当に分かっていないらしい阿部に、利央は苦笑を通り越して笑ってしまいそうになった。

「…んで笑うんだよ」

しかしどうやら本当に笑ってしまったらしく、悔しそうに唇を尖らせる阿部に利央はごめんごめんと謝りながら、

「たかやならすぐ分かるはずだよ?準サンの欲しいものなんて」

「それが分かりゃ…」

苦労しない、と言いかける阿部の言葉を遮り、たかや、と利央が呼びかける。それに何だと返事をすれば、また利央はたかや、と呼んだ。

「何だよって訊いてるだろ」

「だからぁ、たかや!」

「だからなに!!」

不毛なやり取りに埒が明かないと利央は溜め息を吐く。そして諦めたように「じゃあヒントはねぇ」と続けると、阿部のタレ目がぱちっと大きくなる。

「俺の目の前」

だがにっこり笑う利央とは対照的に、阿部はやっぱり解せないというように眉を顰めて難しい顔をするのだった。