KWNB624

二次小説置き場。ブログタイトルから連想できる方のみどうぞ

だから酒ってやつは③

阿部にスウェットを着せてベッドに寝かせた矢野は、洗い場に脱ぎ捨てられた水浸しの阿部の服一式を洗濯機に放り込んでから簡単にシャワーを浴びた。部屋に戻った時にはもう阿部は心地良い寝息を立てていて、さっきは気づかなかったけれど足元に散らばる系統バラバラのドリンク缶に眉を顰める。

「おいコウ、起きろ」

「…んだよ~、寝てる人間起こすなよなぁ」

「勝手に人ンちのコタツで寝てる奴起こして何が悪い」

「いでっ、いででっ、蹴んなって!」

起きるからぁ!と頭をガードしながら漸く川島は寝がえりを打つ。矢野もコタツに入りタオルでがしがしと頭を拭いた。

「お前、何で二人で飲み行ってんだよ。誘えよ」

「え?誘ったじゃん」

「誘われてねーよ。知らなかったし」

「今日ヒマ?って訊いたらバイトっつったじゃんか。だからタカと二人で行ったんだよ」

「いや、タカも行くならそう言えって。だったら…」

「タカとならバイト休めんだ?愛するコウちゃんと二人だと休まないのにぃ~?」

「……」

アッちゃんあからさますぎる!そう言って両手で顔を隠し、わっと泣く真似をする川島を鬱陶しそうに見下ろしてからベッドのかたまりに目をやる。さっきの阿部の言葉が、ずっと頭の中で繰り返されていた。

「…コウ」

「んー?」

訊いてもいいのか、訊くだけ野暮なんじゃないか、そもそもこれは川島と阿部の間でのことで自分が出る幕ではない気もする。阿部に相談されたならまだしも、酔った阿部が口を滑らせただけと考えれば川島を問い質すのもお門違いに思えた。

「なに?何かハナシ?」

「…いや…」

「なんだよ~、気になんじゃん」

「気になってんのは俺の方だバカ」

そして沈黙。これで矢野が腹にわだかまりを持っていることは明白になっただろう。しまったという顔をしたことも決定打だった。

「…タカ?」

「……お前さ、」

観念して矢野は口を開いた。

「酔った勢いで……すんなよ」

川島は寝転がったまま頭の下に手を組んで、じっと矢野の顔を見上げている。目を合わせられないのは矢野の方だった。

「酔ってなかったらいいの?それこそマジじゃん?」

「マジなんだろ?」

「…そうだけど」

こうして確認することは初めてだったけれど、お互い相手の気持ちは知っていた。応援するつもりも牽制するつもりもなかった。昔から川島の好きなものと矢野の好きになるものは同じだったから、互いに刺激し合って共有して、同じものに打ち込んできたから、こうなるのも全然不思議なことじゃない。それを承知で、それでも三人でいるのが楽しかったからそうしてきただけだ。

「つかさぁ、なんでタカ風呂襲撃したん?」

「知るか。服のまんま入ってきやがってよ、なんか泣きそうな顔してっし。だからお前とケンカでもしたのかと思ったんだよ、そしたら…」

「言っちゃったんだ?タカ」

「……」

酔っていたからといえばそれまでだが、阿部の気持ちが分からない。なぜ矢野に言ったのか、どうしてほしかったのか、まるで懺悔のようにも見えたあの表情は、 何に対しての懺悔なのか。

「俺がお前だったら、んなこと知らされたら風呂場で襲ってると思うけどなぁ。何もしてねーの?」

「してねーよ」

少しだけ良心の疼きを覚えながら答える。

「なんでぇ?取りようによっちゃアツシに怒ってほしかったとも考えられね?」

「お前はそれでいいのかよ」

「うーん…いや、つかさ」

お前こそ、いいのかよ。そっくりそのまま返されて、まるで初めて聞いた言葉のようにハッとなる。

「……もう寝る」

矢野は考えることを放棄してベッドに入った。中央で寝ている阿部の背中をぽんぽんと押して壁際へ移動させ、空いた半分のスペースに身体を入れる。

「え?え?お前ベッドで寝んの?」

「俺のベッドなんだから当たり前だろ。あ、電気消せよ」

「タカ寝てんじゃん!だったら俺も一緒に寝るー!」

「うっせーよ、ただでさえ狭ェんだからお前はコタツ!」

アッちゃんのいじわるー!と駄々をこねて布団を引っ張ってくる川島の手を叩いて剥がさせ、肩まで布団を被る。すると壁の方を向いて眠っていた阿部が寝返りを打ち、そのまま矢野の胸にひっついて顔をうずめてきた。

うわっと思ったが相手は熟睡しているし、まだ後ろでずるいずるいと嘆いているうるさい奴に気づかれるとやっかいなので、 観念して阿部の腰に腕を回す。これくらいいいだろ、と心の中で自分自身に許しを与えながら矢野は、もう二度と二人きりで飲みに行かせるのはやめようと固く決意したのだった。

 

 

 

 end