禁煙セラピー
島崎×阿部/大学生設定
俺の恋人は現在禁煙中だ。
大学に入ってすぐ吸い始めた時、俺は何も言わなかった。だけど今までしてきたキスと全然違う味になって、最初こそ苦い味のそれに慎吾さん大人っぽくなったななんてちょっとどきどきしたりしたけど、ある日慎吾さんがタバコを吸い終わってすぐにキスしてきた時、舌がめちゃくちゃピリッてした。
びっくりして唇離して、俺の動揺に慎吾さんもびっくりした顔してた。
それからはキスのたびに身構えるようになった俺に慎吾さんはどうかした?って訊いてきた、から、慎吾さんの舌がピリッてしたこと、 苦いだけならガマン出来るけど自分の舌が痛いのはイヤだってこと、だから自分から舌を絡めるのは怖いので最近はキスすることに抵抗があるってことを俺は、
「もう慎吾さんとはキスしたくないです」
と簡潔すぎる一言にまとめてしまった。
そんなもんだから慎吾さんは意味が分からないと焦って(まぁ当然なんだけど)、なぜかゴメンって何度も謝ってきた。俺はもう少し言葉を補って、つまり、慎吾さんのことがイヤになったとかキスが嫌いなんだとかじゃないって説明した。そうしたら慎吾さんは、もう俺禁煙するって宣言した。
というわけで、慎吾さんは現在禁煙中。
俺は別に嫌煙家ってほど、タバコは嫌いじゃない。
健康に良くないから自分では吸わないけど、慎吾さんが吸っても幻滅したりはしてない。
「ヤマちゃんとモトに無理やり吸わされたっつーのにさぁ、気がついたらあいつらアッサリ辞めてんだぜ。ヒドくね?」
そんで禁断症状で苦しむ俺を喫煙席に座らせてにやにやしながらハイ灰皿、つって渡すんだと慎吾さんは憎らしげに恨み節。
「でもだいぶ吸わなくなったでしょ?」
「うーんそうだなぁ、隆也といる時は特に吸わないようにしてんだけど」
あとこれさえ乗り越えられたら、って言いながら晩ご飯の後に一本タバコを取り出す。食後はどうしても吸いたくなるらしい、これだけはもう少し時間がかかるみたいだ。そのくせ吸い終わると、あー不味いっつってうがいする。不味いのに吸う意味が分からない。慎吾さん曰わく、もうほとんど辞められる一歩手前だかららしいけど。
「隆也、口直しちょうだい」
そう言って、慎吾さんが俺の頭を撫でて引き寄せる。それから軽く唇を合わせると、その間からゆっくり舌が入ってくる。
俺は歯茎も口内も歯の裏も、ねっとり何度も味わうように舐められて、決まって慎吾さんは隆也、美味しいって言う。
「隆也いっつも甘いの飲んでるから助かるよ」
「慎吾さん自分で飲めばいいでしょ」
「いや、マグカップで飲むほど好きじゃないし」
慎吾さんは毎回こうして、俺のカフェオレで口直し。不快な苦味を消すために慎吾さんは俺の口を求めてくるから、俺は今日も甘ったるいカフェオレを口いっぱいに含んで飲む。
ほんとは俺だって、こんな甘いの飲みたくない。だけど慎吾さんの苦い舌でちょうど甘さが消されるから、そんなに急いでタバコ辞めなくてもいいですよ。
なんて、絶対言わないんだけど。
end