KWNB624

二次小説置き場。ブログタイトルから連想できる方のみどうぞ

高瀬準太という男

 

 準さんお誕生日話・後日談

 

準太と阿部がまだ一線を超えていないであろうことは、部内の全員が予想していた。

今まで彼女がいた時の準太の様子も見てきただけにその予想は確信に近い。この時期の高校生男子にとっては付き合うイコールヤッたヤらないの好奇の対象で、それは本人も周囲も巻き込んでの大騒動なのだ。慎吾ほど「遊び慣れている」という名誉なのか不名誉なのかも分からない認識をされていれば(それが事実であろうがなかろうが)それほど追及されることはないが、準太や利央など男から見ても華のある後輩に春が来れば、それは先輩の愛故の餌食になることも桐青野球部での伝統のようなものなのだ。それらの可愛がりで分かったこと、それは

『準太はヤッても報告はしないが、逆にあからさまにクールぶる』

ということだった。

とにかく、今まで散々食いついてきたヤるヤらないの話題に一切入ってこなくなるし、AVの貸し借りにも興味を示さなくなる。あまりにあからさまなのでどうかしたのかと訊いてみれば、いや別にと返すだけ。それでもどうにも様子がおかしい、というか昨日の今日でなぜ突然そういった話題を避けるようにして着替えたりするのか疑問に思わない人間がいるはずがないのだ。

一方準太からしてみれば、彼女と一線を超えたことを根掘り葉掘り訊かれてからかわれることはプライドが許さないのだろう、だから自分はそういう話題に興味がなくなりましたと見せかけているらしいのだが、その態度の一変ぶりに周囲には「何かありました!俺昨日何かあったんです!!」と大声で両腕を上げてアピールしているのと全く同じだということに、何故か準太本人だけが気づいていない。

これが『準太はムッツリだ』と言われる所以だった。

そんな準太に阿部を取られてしまったのは、正直慎吾としては面白くない。

だいたいスタートラインは同じだったはずなのに、なぜ、いつ、どうやって自分ひとりだけ阿部の特別になり得たのかが分からない。気づいた時には阿部は準太と恋人同士になってしまっていて、だったらもう自分は阿部に頼られる良き先輩になるしかないと顔で笑って心で泣いての涙ぐましい努力で、慎吾は今の位置をキープするようになったのだ。

本音を言えば、まぁこの立場も悪くはない。

準太の先輩ということで邪険にもされないし、遠慮があるぶん少々強引に誘えば押しに弱い彼は断り切れずに慎吾に丸め込まれることが多いのだ。そんな阿部の危機を察知した準太が最近は阿部に良からぬ知恵を植え付けるようになってしまったが、準太のことで悩む彼はまさに迷える子羊で、いけないと教えられていてもそれが準太のためだと言えばあっさり信じてしまうのだから愛おしいことこの上ない。

そんな彼に、つい先日も出逢った。相変わらず準太のことで悶々としているのには妬けたけれど、『頼れる良き先輩』の慎吾は、阿部にとっておきのアドバイスをしてあげたのだ。

準太の誕生日は月曜日で、前日に阿部と逢うことは知っていた。だから翌日の放課後、部活が始まる前の部室にわざわざ出向いた。

ちース、と挨拶されておーと返しながら準太を探せば既に他の3年と利央に捕まっている、みんな考えることは同じなのだ。

「準太昨日阿部くんにお祝いしてもらった~?」

「あー、ハァ、まぁ」

「準サンニヤニヤし過ぎなんだけどっ!俺おめでとうメールしたのに無視するしさぁ!」

「あーワリィッ!ぜんっぜん気づかなかった!!まぁ気づいてもスル―したけど」

ヒデーよっ!と喚く利央の後ろから輪に入ると、目の合った本山がニッと笑った。慎吾もさり気なく笑うと、本山は鞄の中からDVDを取り出した。

「あっそーだ準太、前にお前が観たがってたヤツ返ってきたけど持って帰るか?巨乳女教師の痴漢モノ!」

「えっマジすか!やった、貸して下さいよ」

 

その瞬間、水を打ったように部室内は静まり返った。

 

「………ぶ…」

そして、

「ぶあっははははははは!!」

「ギャハハハハハハッ!!マジかよ準太~~~~っ!!」

「えーっ、ええええっ、準サンマジでええ!?誕生日だったのにぃ!?」

「かわいそーーー!!準太かわいそーーー!!」

一斉に爆笑された理由が分かっていないのは準太だけで、だからぽかんとした顔でえ、なに、なんで笑ってんスか、と半笑いで首を傾げている。ここに河合がいればまだフォローしてもくれただろうが、生憎今は準太をいじることしか考えていない連中しかいない、慎吾ももちろんその内の一人なわけで、

「ちょ、慎吾さん!なんで笑ってんスか!?」

「あー悪ィ、お前が可哀想過ぎて言えねーわ」

「なんなんスかそれッ!!」

先輩に訊いても拉致が明かないと悟った準太は後輩の利央の襟刳りを掴んで脅すように問い詰めた。その様子にゲラゲラ笑っていた山ノ井と本山がぽん、とそれぞれ準太の肩を叩く。

「まぁまぁそう気を落とさずに。右手が恋人だって浮気にはなんないから。ね」

「…は?」

「阿部くんだって気分が乗らなかっただけかもしんねーじゃん、まぁこういうのは焦ることじゃねーし」

ま、今回は残念だったねぇ~。

と、言われている意味が分かった準太は垂れた目を思いっきり見開き、

「なっ、なっ、なんでそんなこと分かるんスかっっっ!!」

「えー、だって…なぁ?」

「準太ムッツリだから~」

「フツーっスよ!」

「いやお前はムッツリだ」

「うんうん、準サンはムッツリだよねぇ」

「利央、お前今日は防具なしでキャッチングしろ」

「ええぇっっ」

なぜか全員にバレてしまっていたことに準太のプライドはボロボロに傷つけられる。

完全に利央に八つ当たりをしている準太の後ろ姿を見て、慎吾はやはり安堵している自分に苦笑する。まだ、彼は彼のままだと。そんなもの時間の問題だと分かってはいるけれど、それでも彼が完全に準太の色に染まってしまったわけではないことにほっとしているらしい。

では彼は、慎吾の教えた通りにはしなかったのだろうか?

隣に座らせ、準太のここに触るんだよと言いながら分かりやすいようにと理由付けて、彼の身体に触れたというのに。

彼からはしてくれなかったから、レクチャー代と言って頬にキスしてしまったけれど、準太が失敗したのなら悪いことをしたかもな、と阿部に対して申し訳なく思う。

けれどまぁ、幸せそうな準太を見る限りうまくいったらしいので良いだろう。

準太が慎吾を責めてこないということは、きっと彼はあのレクチャーは秘密にしているに違いない。準太も知らない二人だけの秘密を持てたことに、慎吾は自分の中でだけひっそりと優越感に浸るのだった。

 

 

 

 end