KWNB624

二次小説置き場。ブログタイトルから連想できる方のみどうぞ

あなたとコンビに

 

利央→阿部/大学生設定

 

4丁目のコンビニでバイトしてる女の子が可愛いと先輩達の間で話題になって、だったら今すぐ見に行ってみようぜと酒の勢いもあって偵察に行くことになった。

冷静になって考えてみればその日その時間帯にいるかどうかも分からないのに、やはりそこは酔っ払い、誰もそのことに気付かず全員で期待してコンビニに乗り込む。

「おっ、いるじゃーん!」

「マジ?どこどこ」

山ノ井の指差したスイーツコーナーには、小柄でストレートのロングヘアの女の子が今話題の、どこかのカフェとコラボとかいうロールケーキを並べている。

「顔見えねーじゃん。おい利央、ちょっと奇声上げろ」

「なんで俺そんな役!?ヤダよぉ!」

「よし任せなさい」

と言ってさりげなく彼女に近づいて行ったのは本山で、これ最近話題のロールケーキですか?なんていかにもらしく声をかける。それから二、三言葉を交わして戻ってきた彼の手には、偵察隊全員分のロールケーキが持たれていた。

「どうだった?」

「可愛い可愛い、普通にヒット」

「お嬢っぽいスよね」

「お、準太好み?」

「じゃあ準太、レジでこのロールケーキ温めてくださいって言ってみて」

「イヤッスよ!!」

などと駄菓子の陳列棚のところでぎゃあぎゃあ言い合いながらも、先輩命令で準太と利央が二人でレジに行くことになった。先輩達曰く、とりあえずナンパや声かけなどの掴みは見目麗しい準太と利央が有利らしく、引っかかったら後は話術がモノを言うのでぶっちゃけ面白くない準太はここで御役御免となる。

「あれ?なんでケーキ6個なんスか」

ひーふーみー、とメンバーの人数を数えながら準太が訊く。ここにいるのは山ノ井、本山、慎吾、そして準太と利央の5人のはずだ。

「バッカだな~、余った1個を『これは君に』って渡すに決まってんじゃん」

「準太イケメンだから喜ばれるって。頑張れよ!」

「ぜってーイヤです!!」

という丸聞こえのやり取りの後、デカい男二人が並んでレジにロールケーキを5つ並べると、噂の彼女は引いているのか恥ずかしがっているのか恐らく前者で、完全に俯きながらレジのキーを押した。とそこで、利央は隣のレジを通過した男に目をやると大きな声で「あ」と言った。

その男は利央はもちろん、コンビニにいた桐青のメンバーなら全員存在程度は知っている人物・阿部隆也だった。ただ利央だけは阿部のチームメイトと今でも交流があったので、顔を見ただけですぐに阿部だと分かったのだ。

「西浦のあべ!!…くん、だよね?」

阿部は利央達が来店した時点で分かっていたらしく別段驚きもせず、おお、久しぶりとだけ言ってレジから出る。その後を、無意識に追って利央はレジから離れた。

「家近所なの?」

雑誌コーナーを整理する阿部の隣に行って、嬉しそうに声をかける。友達でもなんでもないけれど、高校を卒業して一年、久々に会う野球関係の人間に利央は無性に親近感を覚えて興奮した。

「いや、大学行く時の乗り換え駅なんだ。お前は?」

「へー、そうなんだ!あ、俺はこの辺に先輩ン家があってさ、可愛い子がバイトしてるって聞いたからみんなで来てみたんだ!」

「可愛い子?…あ、今のレジの?」

「うん」

この反応を見る限り阿部は彼女のことを可愛いと認識はしていなかったようだ、言われて初めて「へぇ」と小さく相槌を打った程度で、特にそれ以上のリアクションはない。

「利央!行くぞっ」

「あっ、はーい!」

じゃあバイバーイ、と手を振って先輩達を追いかけていくと、超不機嫌になってしまった準太に思い切り蹴られた。

「いったー!何で準サン怒ってんのぉ」

「オメーが逃げたせいで俺があの子に声かけなきゃいけなかったんだよ!一人で!」

いつもは利央が声をかけて準太は隣で黙って微笑むだけなのに、利央が突然その役割を放棄したため急遽準太が声をかける羽目になったのだ。

「えー、でも準サン好みなんでしょ?結果的には良かったんじゃないの?」

「悪くなってるからムカついてんだろ!」

どうやら準太が怒っているのは利央がその場を去ったことよりも、先輩達に後ろから「あれっお前いっつもこれ温めてもらってんじゃん。いーの?」「遠慮しねーで温めてもらえば?」などの茶々を入れられた挙句、 コイツ変わってるでしょー、ドロッドロのアツアツロールケーキが好きなんだよ~」とレジの女の子に話を振られ、女の子に苦笑されたことでプライドがズタズタに傷ついたことだった。

彼女はそんな先輩達のことを「面白いんですね」と言ったのだが準太は自分に言われたと思ったのだろう、怒りの矛先を完全に利央に向けて八つ当たりをしてくる。

「もーやだ準サン蹴んないでってば!って、アレ?慎吾さんは?」

慎吾がいないことに気づいて後ろを振り返ると、まだコンビニの中にいる慎吾が目に入る。慎吾は雑誌コーナーにいる阿部に何やら話しかけていた。

「お前が西浦のキャッチと接点あるって知ったから協力してもらうんじゃねーの?」

「あ、ナールホド」

「全然使えないお前とは違って慎吾は頭脳派だね~」

「こういうことに関しては天才的ッスよね」

口々に好き勝手言っているとようやくコンビニから出てきた慎吾が小走りでやってきた。

「どうだったー?」

「あー、とりあえずフリーらしい。んで今度飲みに行こうっつっといた」

「さっすが慎吾。やること早いね」

「手も早いッスもんね」

「準太、あのタレ目の人顔は良いのに気持ち悪いですねって言われてたぞ」

その言葉にずんと落ち込む準太を慰める者はもちろん、慎吾は彼女と会話していないのだからこれは嘘だと教えてやる優しい先輩もここにはいなかった。

それから数日後に飲み会は実現し、可愛いあの子を囲っての酒を全員が楽しんだ。けれど利央はそれよりも阿部と再会出来たことの方が嬉しく、飲みの席でも自ら阿部の隣に座り阿部と野球について語ることに終始した。もともと特別彼女に好意は持っていなかったし、先輩達が彼女を狙っているなら自分は関わらない方がいい。

それに阿部と話すのは楽しかった。どうして今まで友達じゃなかったのかと悔やまれるくらい、阿部との野球談話は盛り上がった。先輩達が彼女にアドレスを訊き始めると利央も触発されたように阿部とアドレス交換をし、またメシでも行こうよと誘うと、阿部はこくんと頷いた。

阿部とメールをしたり電話をしたりしていくうちに、利央は自分の気持ちにあっさり気づいた。これは恋だ。俺は、たかやに恋をしている、と。

阿部は賢くて優しくて、ぶっきらぼうに見えてその実冗談も言える。しっかりしているけれど所々抜けているところもあって、素直なんだか素直じゃないんだか分からない面もあって、つまり一言でいえば 利央の好みどんぴしゃ、だった。

もっと阿部と近づきたい、阿部と仲良くなりたい。それに阿部も、一緒にいてとても楽しそうに見える。これはいけるんじゃないだろうかと浮かれてしまってもしょうがないくらいには、 阿部も利央を好いているように思われた。

「そういやさぁ、あの子なんか言ってた?ウチの先輩のこと」

ある時ふと思い出して阿部に訊いてみた。あの飲み会以来先輩達からは彼女の話は聞いていないので、誰かが本気になったか全員興味がなくなったかのどちらかだろうと思っていたが、もし誰かとうまくいっているならその相手くらいは知りたかった。

「いや、別に何も聞いてねーけど」

「そうなの?誰とも発展してないのかな?」

「楽しかったとは言ってたけど…」

「そんだけぇ?」

「うん」

おかしいな、と利央は思った。身内自慢ではないが、彼ら先輩達は非常にモテる。利央と準太も第一印象こそ評判は良いが、ああして一度飲みに行くと人気はほぼゼロにまで落ちる。 本山と山ノ井コンビの漫才のようなやりとりや慎吾のいやらしくもさりげない口説き文句に落とされる女は数知れず、そして準太と利央は空気のような存在になるのが常だったからだ。

「まーいっか、俺たかやと仲良くなれたのがいっちばん嬉しいし!」

「なに言ってんだ」

照れたように小さく笑う、その表情もすごく可愛いと思う。ねェ、俺たかやのコト好きなんだけど。たかやは?たかやは俺のコト…どう思ってる?

言ってみようか、訊いてみようか。まだ早いかな?そんなドキドキも楽しくてたまらない。もう少し、もう少しだけ待ってみようか。あとちょっと距離が縮んで今以上に近い距離で話せるようになったら、その時は告白しよう。と、思っていた矢先のことだった。

「阿部くんのコンビニでバイト急募してるらしいけど」そんなメールが山ノ井から送られてきた。一時間後には履歴書を持って面接に行った。阿部はすごく驚いていたが、やはりとても嬉しそうに笑ってくれた。

阿部の店長への推薦もあって、面接には見事その場で合格した。いつから入れるかと訊かれて今からと答えたら店長には引かれたけれど、阿部が喜んでくれたから構わない。これはもう運命だ、神様とばあちゃんが天から応援してくれてるんだ、利央は確信した。

「まさかお前が面接来るなんてびっくりしたよ」

「えへ~、いや、ちょーどバイト探してたんだ!そしたらたかやンとこで募集してるって聞いてさぁ」

バイト上がりに一緒に帰る、こんな光景を夢見ていた。まさか実現するなんて、夢以上の幸せだ。

「でもマジで助かった。今全然人いなくてさ…困ってたんだ」

「俺が入ったからにはたかやに苦労させないよ!めちゃくちゃ頑張り屋さんだから俺!」

そりゃ頼もしいな、と言って阿部はとびっきりの笑顔を見せる。いっぱい一緒に入ろうねと言うと、あぁと快く返事をする阿部は本当に可愛い。

どうしよう、嬉しい。胸がどきどきする。手を、握ってもいいだろうか。嫌がられないだろうか、でも意識してほしい、気づいてほしい。だって両想いになれたら、これからもっともっと楽しくなるんだから。

そっと伸ばした指が阿部の手に触れそうになったその時、阿部が口を開いた。

「あの子、彼氏いないみたいだから頑張れよ」

「え?」

あの子、と急に言われても全然まったく思い出せない。あの子?あの子ってどの子?しばしぐるぐる考えて、やっと閃いた。

「ああ!たかやのバイト先の子?」

「それにお前のことカッコイイって言ってたし、頑張ればイケんじゃね?」

と言われても別にいく気はない、というかどうしてあの子のことが今更話題に上るのかが解せない。確かに初めてあのコンビニに行った時はあの子目当てだったけれど、寧ろ一番興味がなかったのは利央で先輩達の方が食いついていたはずなのに、阿部のこの態度はまるで利央が彼女に入れ込んでいるみたいじゃないか。

「まぁこれから一緒に入ることもあるだろうしな。俺が辞めてからはほとんどお前に入ってもらうつもりだし」

はい?

今、なんておっしゃいました?

「え?…え……え…?」

声が震える、半笑いの唇も震える。今、阿部はなんと言った?

「辞めて…から…?え、たかや…辞め、ちゃう…の?」

「え?」

阿部はきょとんとして利央を見上げた。まるで「知らなかったの?」とでも言いたげに、というより言われた、「知らなかったのか?」と。あぁ、知るワケない。

「俺が辞めると人がいなくなるからバイト急募したんだよ。そしたらお前が来てくれたから…」

「ちょ、それ先に言ってよ!てかなんで!?なんでたかや辞めちゃうのッ!?」

「あー…、えっと…」

阿部は宙を見つめるふうに少し顎を上げて、それからなぜか、なぜなのか頬を赤く染めてちょっと黙り、

「…慎吾さんと山ノ井さんのバイトに……誘われて、さ」

「…………」

それで全てを悟れないほど、あの二人とのつき合いは短くない。

阿部と再会してからの自分を振り返る。自分でも驚くくらいはしゃいで、浮かれて、阿部に夢中だった。だからだろうか、いつもなら真っ先に警戒するはずの慎吾と山ノ井の行動を一切覚えていないことに今更気づいた。

考えてみれば阿部と連絡先を最初に交換したのも慎吾、飲み会のセッティングをしたのも慎吾、 阿部が辞めることを伏せてコンビニのバイト募集を教えてきたのも山ノ井、そして覚えのないあの子への入れ込みを阿部は誰かから聞かされていたのだ。

「ちょうど人が足りなくてバイト探してたんだって。そんで、コンビニより時給いいから来ないかって…」

俺や準サンがどんなにバイトが見つからないって喚いてても誘ってくんなかったくせに。

「大学の通り道じゃないけど、ラストまで入れば慎吾さん達と帰り道は同じだし、」

俺なんか自転車で通える距離なんですけど。

「だから、」

お前がウチに入ってくれて、良かった。

嬉しそうに頬を紅潮させて柔らかく微笑む阿部は、利央の心の内など微塵も察することなく、折りしも絶妙のタイミングでかかってきた慎吾と山ノ井からの電話に恥ずかしそうに出たのだった。

 

 

 

 end